2019/01/31 20:36

大阪・京都を中心に多くの学生より支持され、採用媒体を使わず長期インターンの希望者からの応募が100名を超える月も集まる、とある小さな企業がある。

「うち、いま人が足りないんですよ‥」と多くの企業が声を揃えて人不足に苦しむ中、お金をかけずに時間をかける人材獲得に、人を惹き付けるすべを知る。

人を惹き付けるだけではない。そのほとんどが優秀なのだ。

「『新卒採用を検討している600人のうち、毎年最初の30人の中に御社の卒業生がよく入っている。どんな仕組みで育成して輩出しているのですか?』という形で声をかけてもらう事が多くなってきました。」

そう語るのは未来電子テクノロジーの代表・福本真士さん。

一体どうしてここまで優秀な人材を抱えられるようになったのか?福本さんの挑戦の軌跡をたどってみた。

福本さんのプロダクトGOuniteについて教えていただけますか?

「GOuniteでは学生が、興味のある仕事を体験させてもらえる企業へ3-8日間、普段の仕事現場に入り込んで仕事を体験します。 そこで体験した内容を学生目線の体験談と評価で企業のPRを支援するサービスです。もちろん採用を前提としていません。」

今実施しているサービスが当初からこの形であったわけではない。紆余曲折を経て、いまのGOuniteの形に落ち着いた。

 

たまたま営業先に同席していた学生がいまの事業のきっかけに


「起業当初はもともと立ち上げはSMB向けのSNSやウェブマーケ支援を行っていました。パートナー開拓をしていた時の営業先で、たまたま同席していた学生の子がぼくの話をきいて『この商品を売ってみたいです。ここで働いてみていいですか?』と、彼が自分の上司に掛け合って一緒に働くことになったのがきっかけです。」


2011年当時、インターンという言葉自体も一般的でない時勢において初めて行ったインターン。


「その学生と周りの人達の口コミを起点に毎年15人くらい学生が集まるようになったのがきっかけですね」


人が集まるようになるにつれ、「資産化しないともったいない」と思うように。そこで自社のコーポレートサイトでメディアを作り始めた。

「学生がインターンの過程でどのような心境の変化があったか、ブログに書いてもらうようにしたんですよね。学生のブログをみてさらに学生が集まるようになりました。

学生がたくさん集まるようになると、今度はフラットな組織だと成り立たなくなる。そこで行ったのが組織化にカリキュラム、評価制度の導入だ。

「一定のカリキュラムを終え、業務を希望する学生には業務レベルに準じた仕事を与える仕組みを作りました。目標管理も行い、達成をサポートをすることで、一定の成果を上げた学生はグレードが上がり、次に希望する難易度の高い仕事を選べるようにしたり。

四苦八苦を繰り返しながら、最終的には自社の媒体から月に100名を超える応募が来るようになりました。この仕組みをうちの会社以外にも提供したらどうなるだろう、そんな疑問の末にできたのがGOuniteです。」

すべてが計画的に行われて来たわけではない。目の前の課題を一つ一つ機会として捉え対応してきたことで結果につながった。

日本には”プロビンチャ”の世界観が必要



事業を行っていく中で、学生のキャリアと環境を提供する企業の在り方を考えるようになり、自分たちなりの結論が見えてきたと語る福本さん。


「イタリアの中小サッカークラブの総称をプロビンチャと呼ぶのですがご存知ですか?


プロビンチャは未開発の人材を発掘し、特化して活躍できる環境を用意することで、ビッグクラブへのキャリアの橋渡しをしているのが特徴です。



キャリアの入口から出口を設計し、ここでしか学べないことを訓練する。『独自のスタイル』として確立させることで、最終的にトップリーグへ。


ぼくは中小企業に優秀な人材を集めるには、ここでしか学べない『独自のスタイル』が必要だと考えています。人が集まる理由づくり。それが応募者にしっかりと認知されることです。


優秀な人はどうしても外の世界に出ていく。出ていくのであれば、出ていくまでの”出口戦略”を作る必要がある。出ていった人が『あの会社にいたらこんなスキルが身についた!』と卒業生が対外的に語り、企業自身がそういうブランドを作っていかないといけない。


そうすることで、スキルを求めて来る若くて優秀な人をあつめられるだけでなく、会社としての魅力に昇華することができるようになると思ってます。」


素晴らしい思想の裏には当然、失敗もあった。


「実はですね、学生の声をそのまま聞きすぎて、英語の先生を入れたんですよ。そしたら英語を勉強したい人だけが集まるようになっちゃたんですよ。



『仕事どうでもいい!』って人ばかりが集まってきて、何をやってるか分からなくなってきました。あのときは失敗でしたねー(笑)ちゃんと考えようと反省しました。」

 

企業の”中の人でも外の人でもない声”を届けたい


起業して9年。福本さん自身、解決すべき課題だけでなく実現していきたいことも見えてきた。


「企業と学生が『採用』という言葉でつながった瞬間から、お互いの裏側にある意図というか、思惑みたいなのものが出てきますよね。こっちの情報は伝えるけど、こっちは伝えないみたいな。そのような表と裏で情報を変える企業をたくさん見てきました。


つまり、採用という行為が、企業と学生の両者にとってひとつの壁になっており、壁の手前と向こう側で情報の非対称性が生まれているのです。


結局、中で働くまで実際のところは分からないというのが結論です。その状況では多くの情報を提供し、いかに関心を抱いてもらえるのか。これが企業側が走りだす方向性となります。


今後、企業目線の情報量は爆発的に増え、学生からすれば何を取捨選択すれば正しい選択をできるのかが分からない、迷いの時代に突入すると思います。


例えば、企業が新しい型の自社の情報を提供しようと考えたとします。いつもと視点を少しずらして、リアルな仕事の実態を中で働く人がインタビューに答えるフォーマットに決まりました。


その情報の受け手である学生には一体どう映るでしょうか。単にそれも、他の企業目線の情報と同じで、企業が『採用』につなげたい情報に映ってしまうのではないでしょうか。


もちろんそれがダメだとか、企業目線の情報を発信するのがダメだという話ではありません。


このように打ち手を変えた企業目線の情報が増え続けるのであれば、『学生目線の情報』も提供しバランスをとらなければ、偏った情報では学生が迷うだけではないのかというのが僕の考えです。


学生が『現場・現物・現実』を通して、体験した内容が二次情報としてまとまり、その情報を見た学生もまた自分で一次情報にアクセスできる仕組み。


中の人の口コミサイトの声、外に向けて企業が発信している情報。その中間のような存在。
中でも外でもない学生が企業の中に入り、採用ではない出口がある中で、企業にどのような評価を下すのか。


学生が本当に見たいのは自分と同じ学生の声です。それを学生のスキマ時間を使って実現する。事実、学生からの認知が全くなかった企業が、たった3ヶ月で次の体験希望者の順番待ちが起こるような事例もでています。


ぼくはここに価値があると思っています。だから、より多くの人にリアルが流通する仕組みを作りたい。」


『現場・現物・現実』に向き合い、市場のタイミングに合わせながらピボットし続けた。「フィットするまでに3年、全体では5年はかかりました」と話す福本さん。


多くの人々を魅了するようになるまで、ひたむきに挑戦し続けたし、これからもその挑戦はつづく。


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